今回の行き先は山口県は角島だ。彼女が昔から行きたいといっていた場所で、僕も何度か調べたことがあるんだけど、景色がとても綺麗な場所。
海底の白い砂が透けて見えるほどの浅瀬が角島まで続いていて、架かる橋とのコントラストがとても美しい。澄んだ海の青い色が南国や沖縄の海を彷彿とさせる。
最近では写真も加工するのが当たり前になってきている時代だから、ネットで見る写真もにわかには信じられないけど、角島の写真は加工なしで、十二分に美しいことを僕は思い知ることになる。
景色に心を癒やされることは日常生活においてままあることかもしれないけど、角島や元乃隅神社で見る景色は、特にそう感じる場所だった。
『行ってよかった観光地ランキング!』なんて雑誌やネットの特集にも、たびたび取り上げられているのをみると、多くの人がそう感じてるんだろうなと想像する。僕はレビュー信者だ。

さて、すでにクライマックスかのような書き出しをしてしまったけど、出発はこれからである。前日には「明日は角島だぜいぇーい!」と二人で前祝いをしてお酒を飲んだ。僕らはいつもお酒を飲んでいる。
「朝5時に出発しようか?」
なんて気合い入りまくりの会話をしていたけど、結局起きたのは8時を過ぎていて、それから準備して出発した。旅に飲み物は付き物ということで、まずはスターバックスに寄った。
二人で「アーモンドミルクラテ、ホイップのせチョコレートがけ」を頼んだ・・・
頼んだつもりだったのだが、僕の滑舌の悪さのせいでホイップが乗っていなかった。すまない。
GEOでDVDも借りた。ゲド戦記と風の谷のナウシカとあとタイトルを忘れちゃったけどSF映画。
別府から高速道路にのり、いざ山口県を目指す。到着するまでのすべてのサービスエリアに寄って買い食いしてやるぞと、最近また出てきたお腹のことは忘れて意気込むけど、東九州自動車道には別府以降サービスエリアはないことを知ることになる。
椎田や豊前あたりにひとつ作りませんか?
この日は天気がとてもよかった。空に浮かぶ雲の量が2割以下なら晴れではなく快晴というらしいけど、この日は間違いなく快晴だった。山の緑が綺麗で、空気も澄んでいるのか景色が遠くまで見えた。
フロントガラスを突き抜けてくる日差しは暑いけど、車を走らせているだけで普段ない爽快感を感じた。
そうして車を走らせ、まずはひとつめのワクワクポイントに到達した。九州と本州を隔てる海、関門海峡だ。
近づくと彼女がカメラを取り出して準備した。橋は高速道路を走ったまま渡ることができる。

橋から見る景色はやはり綺麗だった。橋の下には船が白波を描きながら航行してゆくのが見える。実は僕は船でも通ったことがあるんだけど、関門海峡は潮の流れが早くて熟練した船乗りでも気を使う場所だ。夏には橋の両側から打ち上がる大規模な花火大会があってとても綺麗。
彼女が助手席からシャッターを切った。橋の両脇の壁がけっこう高い場所があったり、シートがかけられていて景色が見えない場所があったり、なかなか思い通りに写真を撮れなかっただろうけど、それでも綺麗な写真を撮影してくれた。思い出の一ページがまたここに一枚。
本州に入って、少ししてからナビに従って高速道路を降りた。降りた時点で角島までの距離は40数kmだったと思う。山を走ったあとに海沿いの道に出た。
「角島渋滞だって」
道路の電光掲示板を見て彼女が言った。さすが人気観光地だ。

まもなくして角島に到着した。ネットで見た写真と同じ景色が目に飛び込んでくる。
僕らはとりあえず、そのまま車で橋を渡ることにした。橋の隅を歩いている人や、橋の途中で車やバイクを止めて景色を眺めている人。また写真を撮っている人。多くの観光客が角島の自然と景色を楽しんでいるようだった。
橋を渡った先に駐車場があって、まずはそこに車を駐めた。角島側からの景観を堪能したあとに、今度は本島側に戻って展望台から景色を眺めた。

海は本当に綺麗だった。浅瀬であることも相まって、海の底が見えて透き通っていることがわかる。島の向こうは日本海の水平線が続く。暑ささえなければ、いつまでも見ていられる景色だ。水上スキーを楽しんでいる人の姿も見えた。
隣では彼女がシャッターを切っている。暑いのか頬が紅潮していて、額には汗が浮かんでいる。眩しそうに眉をハの字にしている姿が愛らしい。「あちぃなぁ」なんていいながら、いくつかの撮影スポットを歩いてまわった。



売店もあったけど、売店には寄らずに角島をあとにした。次の行き先は元乃隅神社。角島からは約40~50分の距離。191号線をさらに東へと走らせる。
角島よりもどちらかといえばこちらのほうが渋滞していた。駐車場が駐車券を取るとゲートバーが開くタイプになっていて、なかなか車が前に進まない。
それでもなんとか車を駐めることができ、僕らは元乃隅神社の地へと降り立った。まずは「竜宮の潮吹」と呼ばれる海沿いの崖に向かった。二時間ドラマのクライマックスシーンで使われそうな崖だ。波が崖にあたって潮を吹いたように打ち上がることから、こう呼ばれるようだ。
足場が悪かったけれど、高さもあって崖から見る景色は雄大だった。
「冗談はやめてよ」
彼女がそう釘をさした。崖から落とすふりをしないか疑っているのだ。この高さでふざけるのはさすがに怖い。


崖からUターンして今度は名物の鳥居がいくつもある場所をくぐる。ここは超パワースポットらしい。開運、金運、恋愛運等々、運気を超絶アップさせると有名だそうだ。
信じる者は救われる。僕は鳥居をひとつくぐるたびに自分がパワーアップしてる様をイメージして歩いた。
「どう、パワーアップしてる?」
「むしろ階段と暑さでパワーダウンしてるわ」
現実的な彼女です。

鳥居をくぐって登りきったところに賽銭箱があり、参拝した。
「なにかお祈りした?」
「うん、ひとつだけ。いつもひとつだよ」
願いは気になるが教えてはくれない。聞かないほうが美徳とわかっていても、やっぱり気になるなぁ・・・
帰りに凍らせパインを買った。冷たくてとても美味しかった。
元乃隅神社を出た頃にはすっかりお昼を回っていた。これからは兼ねてから僕が行きたかった瓦そばを食べにいくことにする。
若い頃に一度だけ食べたことがあって美味しいと記憶していた。また食べたい。
向かった先は元祖瓦そば「たかせ」
到着は15時頃になって、この時間ならもうお客さんも少ないだろうなんて言ってたけど、5分~10分待つ程度にお客さんはいた。さすがは人気のお店だ。店舗も本館、南館、東館といくつかあるらしい。どれだけ人気なんだ。
瓦そばを二人前とうなめしを注文した。店内は畳になっていて、建物は風情ある木造の建築物だった。


瓦そばは美味しかった。特に彼女は食べれば食べるほどに「美味しいねー」としみじみ口にしていた。ダシも美味しいし、そばのうえに豚肉がのってるんだけど、豚肉ともよくあった。
うなめしはそのまま食べることもできるし、茶漬けにもできる。うなぎの茶漬けなんて贅沢だけど、これがまた旨い。僕は若い頃に一度来ているけど、うなぎの茶漬けが一番印象に残っていた。
彼女はお茶漬けにするのはもったいない気がすると、ギリギリまでそのままのうなめしを楽しんでいた。
旅の空腹を満たすには十分な食事だった。またいつになるかわからないけど、もう一度来たい味だ。
帰りは彼女が運転を申し出てくれた。お腹いっぱいで眠いだろうに、感謝感謝である。

別府に到着すると、一日の汗を流すべく、明礬温泉の「山の湯」で温泉に浸かった。値段は1500円とリーズナブルで、別府の街の夜景も堪能できる景色のいい温泉だった。